試練の与えてくれるもの

崇君はスポーツ万能で、頭も顔もよく、おしゃべりも上手い。

面白くて、男女共に人気があって、お金持ちで、都会育ちで

唯一の欠点は、身体が少し硬いところくらい。


こんな人も世の中にはいるんだなぁと、昌世は思う。

彼を嫌いって言う人を昌世は知らない。

限りなく完璧に近い、みんなに愛される人に思えていた。


やがて崇君は、有名私立中学に入学した。

昌世は公立中学だったから、卒業後は崇君に会わなくなった。


その後、ふと、風の便りに、崇君のご両親が

病気で亡くなったことを知った。


崇君と弟は、別々の親戚に

引き取られることになったということも…。


いつも笑顔で明るい、崇君の顔が目に浮かび

昌世は目頭を熱くした。

連絡先は、わからない。

昌世は、彼に連絡する術を知らない。

彼の人生を、遠くから、そっと応援するしかできない。


ただ、思うのは

彼なら、きっと乗り越えられるっていうこと。

 


二十年後、昌世は、偶然、崇君に逢った。


すぐに彼だとわかった。

彼は、あの後、猛勉強して、外科医になっていた。

奥さんと子供たちと、幸せな家庭を築いていた。
 

昌世の祈りは、届いていた。

というよりもむしろ、彼は、彼自身の力で

人生に立ち向かい、人生を切り開いてきたのだ。


昌世の胸の奥に、小さな灯りがともった気がした。




テーマ:エッセイ・散文 - ジャンル:小説・文学

3.今、生きている

昌世は、一人っ子だった。

「昌世ちゃん、弟か妹がほしい?」

あるとき、母に聞かれた。


「別にいらない」

とっさに、何気なく、そう答えた。


そして、昌世は、ずっと一人っ子だ。


(もしもあのとき、「きょうだいがほしい」と答えていたら…)

あとになって、すごく後悔している。


弟か妹がほしかった、という気持ちもある。


けれども、それ以上に

自分のせいで

『この世に生まれたかもしれない一人の人間』が生まれなかった

という自責の念が強い。


何気ない一言で、一人の人間の生命が

左右されてしまった。



昌世は、時折、ひざまずき

心から何かに詫びたいような気持ちになる。 

テーマ:芸術・心・癒し - ジャンル:学問・文化・芸術

前向きでいたいから

「おとなしいねえ、昌世ちゃんは」

いつも、そう言われ続けてきた。

批判しているわけではないと、わかってはいても

褒められているとも思えなかった。


「おとなしい」は、「内気」であり、「内向的」であって

「無口」で「社交的でない」と同じに思えた。


本当は、話したいことがいっぱいある。

本当は、内に秘めた熱い情熱がある。

そう、声を大にして言いたい気持ちがこみ上げてくる。


でも、そんなことを人に話しても

仕方がないとわかっていたから

何も言わず、にこにこするばかりだった。


心の中は他の人にはわからない。

ちゃんと言葉にしなければ、なかなか分かってもらえない。

声に出したところで、真意は伝わりにくい。


結局、誰になんと言われようと、自分は自分らしくいよう。

それでいいと思うようになった。


私は、私。世界でたった一人の、昌世。




テーマ:芸術・心・癒し - ジャンル:学問・文化・芸術

おばあちゃん先生

小学校5・6年の担任は、評判のいい
おばあちゃん先生だった。

歌が好きで、優しくて、
教え方も上手な、おばあちゃん先生。

もっとも、男子たちは、隣りのクラスの
体育会系の先生が、ちょっと羨ましそうだった。



おばあちゃん先生は、昌世に、

「昌世ちゃんは、
 これからどんどん伸びるから」

と、よく言ってくれた。



昌世の現状はといえば、
勉強の出来は、まあまあ…。

すごくできる子は、
昌世以外に何人もいた。


あまり自覚もなく、
訳もわからないまま、昌世は
おばあちゃん先生の言葉を
聞いていた。



確かに、おばあちゃん先生は、
教え方が上手だった。

今までの先生よりも、
授業はわかりやすかった。

昌世は、塾に行っていないので、
学校の宿題だけは、きちんとこなした。



昌世の成績は、ちょっとずつ上がった。



でも、もの凄く勉強ができる…
っていうほどではなかった。



やがて、卒業を迎え、春休みに、
おばあちゃん先生の家に
遊びに行った。


一緒に行ったのは、
いわゆる「できる」女の子たち。

何となく、そういう流れになった。


自分がその中に入ることに、
何となく違和感を感じながら、
昌世は参加した。



みんないい子ばかりで、
おばあちゃん先生も優しくて、
案外楽しかった。


おばあちゃん先生手作りの
おしるこが、妙に美味しかった。


昌世は、小豆があまり好きじゃない。
なのに、不思議と食べられた。



おばあちゃん先生の魔法かな。



おばあちゃん先生は、
どうしてこんなに、優しくして
くれるのかな…


昌世は、何度もそう思った。



答えはずっと、見つからないままだ。






やがて、昌世は中学生になった。



勉強は難しくなったはずなのに、
昌世には、よくわかるようになった。

不思議なほど、いい成績が
とれるようになった。


(おばあちゃん先生のおかげかも…)


昌世は、そう思った。



ふと、おばあちゃん先生が、
卒業式の後、教室で歌ってくれた
『浜辺の歌』を思い出した。


心に沁みる歌声だった。


昌世は、きっと忘れない。


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テーマ:ショート・ストーリー - ジャンル:小説・文学

ちびっこ村やん

村やんは、小柄で、おちょこちょいで、
目がちっちゃくて、よくしゃべる男の子だ。

名字が「村田」で、「村やん」。
男子からも女子からも、
「村やん」と呼ばれていた。


村やんは授業中、ひっそりと気配を消す。
休み時間になると、水を得た魚のように
はしゃぎ回る。


村やんのお弁当には、時々、
焼うどんや、カレーが入っている。

「やったー!今日のお弁当はカレーだぁ」と、
冷たくなったカレーを、美味しそうに食べている。


他の男子が、村やんにちょっかいを出すと、
「やめやぁ、みんな~」と、村やんは言う。

相手がたった一人でも、村やんは、
「みんな」と言う。


そんな村やんを見ていると、思わず笑顔になる。
何だか楽しくなってくる。


昌世は、村やんが大好きだった。
LOVEではなくLIKEである。(念のため)



やがて、クラスが変わり、進学先が変わり、
村やんと会うこともなくなった。




月日は流れ、昌世は、高校一年になった。



ある日のこと、

「あの人、村やんのお兄さんだって!」

幼なじみのクラスメートが、そう言って、
ある男子を指さした。


そこには、

背が高くて、イケメンで、
村やんには全然似ていない人がいた。

村やん兄は、スポーツも勉強もできる、
なかなかすごい人らしい。


昌世は、何だか複雑な気分になった。


村やんの明るさの奥の、寂しさ
…みたいなものに触れた気がした。

村やんが、今まで以上に、
愛すべき存在に思えた。



「似てないよね、村やんと…」


友達は続けた。


「でもね、
 結構仲いいらしいよ、あの兄弟。
 村やんから誕生日にもらった
 携帯ストラップ、
 お兄さん、いつも持ち歩いてるんだって…」



昌世は、何だか、嬉しかった。


ブラボー、村やん☆

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テーマ:オリジナル小説 - ジャンル:小説・文学

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